なんだか観た映画 Vol.5 長嶋有

May 29,2019 /

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これは、大好きなわけでは決してないのに「なんだか」観ちゃう、そんな映画を観てみようという連載なのだが、ここまでの連載で、鶴谷さんやセクシーさん、北野さんらがあげた映画には共通点がある。それは、その人が若い(主に十代の)ころに出会っているということだ。若くて価値観がまだ定まりきっていないから、観ることと好きになることの間にズレが生じるわけだ。 小学館の敏腕編集者である徳山さんのあげた作品『UDON』が意外だったのは公開年度。2006年の作ということは、徳山さんが三十代ごろの公開だ。成熟した年齢で出会って、なおも「なんだか」観ちゃうような映画ってあるのか。 そもそも、なんで『UDON』なんだ。いや、徳山さんは大好きな映画として挙げてるわけではない。むしろ「なんだか観た」映画ぽいチョイスなのではと思いつつ、「なんだか観る」ことにさえ、「なんで?」と思ってしまう。 たとえば、恋人と映画でも観ようかとか、ちょっと時間空いたなーなんか観るかとか、友達と明日、映画でもいかない? とか。そういう局面で「よし、『UDON』観よう」……って思うか? いや、まったく個人的な嗜好でひどいこと言ってるが、でも言う。映画ってカテゴリーやジャンルがある。「アクション」とか「ホラー」「サスペンス」「ラブロマンス」とか。また「アニメ」とか「文芸的なの」とかそういう「括り」も。 「UDON」について梗概をみると、その「ジャンルがうどん」って感じだ。「四国のうどん屋の息子が雑誌の取材でうどんをブームにしていく」映画なのだ。 つまり「ホラーにする? うどんにする?」みたいな選択になる。ホラーは嫌だ、怖いからとか、アクションがいい、スカッとしたいとか、そういう「嗜好」に応えるために「ジャンル」ってものがあるのだとしたら、うどんってなんだよと、いつまでも思うわけだ。 で、みてみた。ニューヨークで、主人公がコメディアンの修行に挫折して、バスに乗って瀬戸大橋を渡る冒頭でもう、なんか伝わってくる。 ニューヨークはちゃんと現地でロケしているし、瀬戸大橋はヘリの空撮。 「金かかってるなあ~」もう僕は口に出してしまっていた。 この日は(連載初回以来)久々に編集のスモ君、デザインの弾さんと男三人で観ていたのだが、僕は開始五分くらいでもう、言葉を発した。 家で人と映画を一緒に観るとき「言葉」をどれくらい「言って」いいか、迷うものだ。普通、そんなペチャクチャ喋らないのがマナーだろう。テレビを漫然と眺めているとかでなく、わざわざ部屋を暗くして、映画を観ましょうというとき、作中の感想さえ「どうしても言いたくなった」ときだけ、小声で漏らすものではないか。 それが、開始直後の瀬戸大橋で、これ、喋りながら観ていいな、と(二人にも断りなく)決めてしまったのだ。 「映画を観る」というのは「お金をみる」ということでもある。 昔、堺雅人さんと対談するとき、彼の出演作を借りてきて、だいたい観た。『壁男』はほぼ室内劇だったが、続けて観た『ハチミツとクローバー』では、裏原宿を役者たちが闊歩していた。人通りのあるロケ場所を抑えて野外撮影できている。つまり、我々は映画をみるとき--ただ、役者が歩くだけでも--「お金」を観ているのだ、と思った瞬間だ。 ドローンのない時代、空撮は大変なことだった。ただ主人公が(夢破れて)帰るだけでヘリを飛ばせるなんて。 また、瀬戸大橋をゆったり映すカットに、瀬戸なのにどこか「レインボーブリッジを封鎖せよ!」感をみてとって、そうか、監督『踊る大捜査線』の人か! とつながる。のちに徳山さんに聞いたアンケートでは、同じ監督作でも『サマータイムマシン・ブルース』が好きで、監督目当てで『UDON』も観たそうだが、僕には『踊る~』の印象が強かった。 そのつながりは、お金と別のもう一つのことを想起させる。 「これ、フジテレビ映画だ!」と。
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本作をみながら想起したもう一つの映画は『CHECKERS in TAN TAN たぬき』である。1985年の作品で、題名の通り当時人気のチェッカーズを主演に据えたアイドル映画であり、なおかつ、お台場に移る前のフジテレビ社内がロケ地にも用いられている、大・フジテレビ映画でもあった。 「国民的アイドル、チェッカーズの正体はたぬきだった」という筋だ。他愛ない。正体が狸であるのも単に「かわいいから」くらいの選ばれ方で必然性が薄い。ナンセンス狙いだとしても、アイデアが上滑りしている。 「『チェッカーズがたぬきだった』なーんてことで映画一本撮っちゃう?」という悪ノリが、いかにも当時のフジテレビだ。 「『踊る大捜査線』をヒットさせた監督が次に撮るの、うどんってどう?」 もう、映画の向こうに「企画会議」がみえてくる。くだらない思い付きを、予算もかけて遠しきっちゃう。くだらないことに全力でバカやっちゃう俺ら。 もっとも、監督にとっては「くだらない」ことではなさそうだ。丸亀出身で、うどんへの思い入れは強く深いものだったらしい。徳山さんが最初に観た理由も「メインの理由は『麺通団』の本『恐るべきさぬきうどん』を読んでいたからだったと思います」とある(「ホラーにする? うどんにする?」は、ありうることだったのだ)。 純粋なうどん愛でこの映画はできている。僕も高松に仕事で行ったことがあるが、地元の人しか通わないうどん屋に連れて行ってもらったことがある。そういった「素人の店」がたくさん協力して、うどんふるまいシーンが畳みかけられる。さすがにうまそうだ。地元だけのソウルフードを知らしめたいという監督の熱意は強く伝わってきた。 同時に「金かかってるなあ~」の声も要所で漏れる。ヒロインの運転する日産マーチは二度も(さしたる筋書き上の意味もなく)大破するし、テレビでみかける(ちゃんとしたギャラの)人気者が出ずっぱり。主人公の家族はもちろん、タウン雑誌の編集長に編集者たち、高校生のうどん部員たち、皆、最後までスクリーンのどこかに「いる」(結果皆、暇そうにみえるし、拘束時間の長さもギャラの高さを思わせてしまう)。途中スモ君らと何度も「あれ、ムロツヨシじゃない?」「真木よう子でしょう、あれ」「要潤若いねえ!」と名前を口に出して確認し合うのはもう映画鑑賞じゃない、爺がテレビみてるノリ。筋も単純だし役者は派手だから朝ドラ鑑賞に近く、「なんだか」何度も観ることができる理由がだんだん分かる。ミニシアター的なアイデアを潤沢な予算でやったらこうなったという、稀有な例だろう。 最後、ダメ押しの空撮はうどん店への大行列も映して、「映画の顔」で終えてみせた。 ……しかし、あえて相手の悪ノリを肯定的にとらえた上で本作を批判するとしたら、この行列はもっとすごい大規模にしてほしかった! 『フィールド・オブ・ドリームス』とまではいかなくても、それに迫るものをだ。 「TANTANたぬき」の、映画史に残るといっていい鳥取砂丘の大群衆場面(圧巻!)を思う時、フジの悪ノリ力も07年時点ではこれくらいか、と思わせる規模にダウンしていたことも事実。19年の今のフジに、これほどの映画を作る体力あるかしらと要らぬ心配もしてしまう。 「バブル崩壊後で就職氷河期ではあるがリーマンショック前のまだどこか呑気だった日本へのもどかしいような恥ずかしいような不思議な感情。あの頃はメディアを使ってブームを起こせば一山当てられるという無邪気な幻想がまだあった。ネットもまだ紙媒体を補完するポジションだった。」とは徳山さんの言。そういえばこれは「編集者」が編集をする映画でもあります。 「仕事をつうじた"第2青春時代"感がまああの頃の自分にも重なるんでしょうね」とも。観終えて、徳山さんのアンテナの貼り方にも感嘆した。監督や、役者やジャンルで観ちゃうだけでなく、映画は題材でワクワクしたっていいのだ。 ※次回は19年7月下旬更新予定です。

NANDAKA MITA MOVIE DATA

『UDON』 製作年:2006年 製作国:日本 監督:本広克行 脚本:戸田山雅司 音楽:渡辺俊幸 出演:ユースケ・サンタマリア、小西真奈美、トータス松本

GUEST PROFILE

徳山雅記 編集者、路上観察者。俳句同人『傍点』同人。学生の頃、『写真時代』にトマソンの投稿が一挙4枚掲載される。給水塔、塀、タイル等々、路上観察がつづられるブログ「徳山館」では、徳山さんの「興味」を観察することができる。ブーメランの第一人者で、凧に関しても専門家なので、傍点句会において、ブーメラン句会(その記事がこちら)や凧揚げ句会などを企画してくれる、頼もしくもゆかいなアニキ。

MEMO備忘録

この連載の前身と言っていい僕の映画評『観なかった映画』の、巻末に掲載された膨大な「備忘録」。あれが好評だったので、単行本の刊行後に観た(2017年からの)映画の備忘録をここでも少しずつお届けします。順不同、ネタバレあり注意!

『ターミネーター』 1985年[米]ジェームズ・キャメロン そういえば、4:3じゃない映像でサラウンドで観るのは初。当時これを予備知識なく観た人はかなりドキドキしたろう。裸で現れる謎の二人の男の正体を(もう片方も悪役ではないか? と)、ギリギリまで分からないように描いている。SFの説得力って「Mrスポックの耳」くらいのことで持たせるところがあるが、ターミネーターを演じた人の「ロボット感」は、この筋書きにすさまじい説得力を与えている。本当にライフルを片手で無反動で撃てそう。日本の漫画家がこぞって取り入れたのも納得のキャラクター性。あと、カーチェイスがきちんとかっこいい。 『心に吹く風』 2017年[日]ユン・ソクホ 『冬のソナタ』の監督の初劇場監督作でオール北海道ロケの恋愛ドラマ。安直なやり取りのオンパレード、なのに目が離せぬ! 佐野洋子さんが「冬ソナ」を愛好していたということを、我々は軽視してはいけない。なぜか推薦文を頼まれて張り切って「爆笑!」みたいなの出したらボツにされるという屈辱も(末端時評で雪辱)。 『ピザ!』 2017年[印]M・マニカンダン 踊らない系のインド映画。スマホの時代にもド貧乏(というか貧富の差)を「絵的な説得力まんまんで」描けていて、映画としてはそれは面白くなってるけど、そんな貧乏が現実にあるなら、楽しい映画にしちゃってていいのか、みたいなことも思う。淡白な筋運びが心地よかった。 『シンプルフェイバー』 2019年[米]ポール・フェイグ ダサいyoutuber主婦と、洗練された酒飲みビッチ主婦、女優二人の演技合戦! サスペンスとしては「どんでん返しすぎ」でやや白けたけど、あまりに楽しくて婦人公論の連載小説の主人公たちにも語らせてしまった(6/11発売号の第6話にて!)。 観なかった映画 なるべく監督や俳優などの名詞を使わず、映画の中に起こっていることだけを語り尽くした映画評論集。読んだ後、映画がなんだか観たくなる。 新装版 春のお辞儀(書肆侃侃房 刊) 2014年に刊行し、絶版となっていた第一句集『春のお辞儀』。新装版として、14年以降の新作を44句増補収録。 野性俳壇 雑誌「小説 野性時代」で、長嶋有が俳句欄の選者を勤めます。一緒に選をするのはテレビ番組『プレバト!!』でもおなじみの夏井いつきさん。投稿は こちらから。 NHK俳句 Eテレ「NHK俳句」で、長嶋有が第二週の選者を勤めます。NHK俳句は毎週日曜、午前6時35分から。投稿は こちらから。 俳句同人 傍点 2014年結成の俳句同人。主催(主宰にあらず)は長嶋有。 ツイッター上の言葉遊びをきっかけに、作家、漫画家、造園業、心理学者、学生、デザイナー、官僚など幅広い職種のメンバーが集う。句会では誰もが点数に拘泥し、逆選の応酬でギスギスと盛り上がる。 同人名の由来は、主催が傍点好きでやたら文章にふることと、俳句とは、それ自体が世界に傍点をふるような行いだというこじつけから。
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長嶋有

長嶋有

1972年生まれ。2001年『サイドカーに犬』で文學界新人賞受賞。2002年『猛スピードで母は』で芥川賞受賞。2007年『夕子ちゃんの近道』で第1回大江健三郎賞を受賞。2016年『三の隣は五号室』で谷崎潤一郎賞受賞。 俳句同人「傍点」主催。 2014年 第一句集『春のお辞儀』を活版印刷で刊行。Eテレ「NHK俳句」にティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ(以下TMNT)のTシャツを着てゲスト出演。時々句会などにTMNTの甲羅型バックパック(サイ付)を背負って登場。 2017年 『観なかった映画』刊行。名詞をなるべく「言わない」映画評のスタイルを確立。 2018年 夜の広尾でサイを落とし、走って拾いにいく。 2019年 Eテレ「NHK俳句」の2019年度第2週の選者を担当。番組サイトの選者紹介ページで、またもTMNTを披露。 長嶋有公式サイト

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