なんだか観た映画 Vol.4 長嶋有

March 29,2019 /

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 フィクションの中の人が現実と違うのは、現実にできない活躍をするからだけではない。フィクションの人は、読み手の願望に従いロールモデルとして生きてくれる。ときには人格を途中で変更してまで。  映画でなく漫画だが『金田一少年の事件簿』の(また金田一の例えかブルボン……いや、俺よ)、主人公の探偵、金田一のライバルに明智警視というのが登場する。初登場時は、金田一の天才性を引き立たせるための存在だった。エリートを鼻にかけ、得意げに推理を披露するがすべて犯人のミスリードにのってしまう、ダメなキャラクターだった。  しかし、その事件の次からもう、互いに理解し合う好敵手というか、金田一に並びうる天才として描かれるようになった。顔さえなんとなくむくみが取れ、かっこよくなってしまった。  そんな風に人間の個性は--現実には--激変しない。フィクションでは、客の期待や作り手の都合で、人物が変わっていく。 前置きが長くなったが、北野勇作さんの「なんだか観た」映画も、フィクションのその特性が、本作をして「一番好きな」ではなく「なんだか観た」のポケットに収められたことに、深く関わっている。 『ガメラ対バイラス』は、大映の怪獣映画『ガメラ』シリーズの4作目だ。東宝の対ヒット映画『ゴジラ』の向こうを張り、恐竜型と一線を画す亀の怪獣『ガメラ』が生み出された。ゴジラもそうなのだが、ヒットするとシリーズ化する。シリーズ化が続くうち、どうも、なぜだか、必ず、ゴジラやガメラは「いい」怪獣になる。  先の明智警視の例がそうであるように、客の潜在的な期待を汲むとき、いかにも話通じませんみたいな感じで街を破壊して去ることの繰り返しよりも、なんだ味方だったんじゃんか、みたいになる方が支持を得やすいのだろうか。 だろうか、と疑問形なのはつまり、子供の味方になっていった後期のゴジラ、ガメラ映画を、当の子供たちは喜んでいなかったように、僕には思える。北野氏も、初期の『ガメラ対ギャオス』や「平成ガメラ」がもっと好きなガメラ映画だという。 「なぜこれがいちばん観た映画か、といえば、子供の頃、なぜかテレビではこればっかりやってたんですよ」たしかに、これか『ガメラ対ギャオス』だった。 「中学生くらいになるとさすがに、『またこれか』とか思ってました。ギャオスとかバルゴンが観たいのに。がっかりするんですけど、やっぱりやってれば観るわけですね。そういうことです」中学生まで、すでに何度も観ているということだ。 「だからどっちかと言えば、嫌いだったこともあります。反抗期かな。でも観るんですけどね」チャンネル変えてもいいのにね。 「なぜ嫌いだったかと言えば、『子供だまし』に思えたんですね。大人が子供のほうに寄せてきてる、という感じが嫌だったんです。今観ると、そういう制約の中でがんばってちゃんと作ってる映画だな、と思うんですが。」  やはりそうだ。ゴジラも「良い者」になるが、ガメラはかなりだ。人間に害をなさないどころか「人間の子供が好き」という設定が加わってる。「強いぞガメラ」を少年合唱団が連呼する主題歌も、怪獣と子供と和気あいあい(北野さんも「ガメラマーチとかも嫌だった」と曲への嫌悪も吐露している)。  当時はマーケティングみたいな単語は流布していない時代だったが、「子供にウケる」ことを意識して興行をしているわけで、あれが大好きだった子供が大勢を占めていなければおかしいと思うのだが、子供にやさしいがガメラ大好きでしたという人に、会ったことがない。 『ドラゴンボール』があるときから格闘ばかりになって(描線も丸みがなく、かわいくなくなって)僕はとてもつまらなかったが、大勢が格闘路線を支持していた。そのことを思う時、僕や北野さんが狭い世界に生きているだけなのかもしれないが、本当に「僕らの味方ガメラ、わーい!」と楽しんでいた人いたら教えてください。  ともあれ、久々に観る『ガメラ対バイラス』はとても楽しかった。僕も「テレビでやたらと」の再放送をみたクチだ。僕の記憶には、白黒の風船をくっつけたようなUFOの独特な造形と、そこに拉致される少年たちのふるまいがとても印象に残っていた。拉致された少年は、言えば食べ物とかを出してくれる(アレクサみたいな)機械に向かって一計を案じる。リンゴを頼めば、皮をむくナイフもついてくるはずだ、と(……関係ないが、松本人志の映画『しんぼる』で主人公が囚われる密室は、このバイラス星人のUFOがアイデアの基になっていると僕は思っている)。ナイフを武器に脱出しようとリンゴを頼むのだが、機械から出てきたのはお母さんがむいてくれた状態になっていて、ガッカリ。  という場面がずっと忘れられなかった。地球制服しようとしている敵も少年もトンチ合戦みたいなことしてて。 少年たちがボーイスカウトだったことは今回まで忘れていた。イタズラして乗り込んだ潜水艦の小さな窓から超巨大な生物と遭遇する、それがファーストコンタクトだ。海中で敵に襲われて、いきなりガメラが「無言で」自分を守ってくれるなんて、素直な子供にはやっぱり楽しかったかもしれない。 北野さんの回想がいいので列挙する。「オープニングの『ガメラ』の文字の出し方は、子供心に『かっこいい!』と思いました。今初めて存在を知ったくせに、なんで名前知ってんねん、ですけどね。まあそれは野暮なツッコミです 」「あの潜水艦も好きです。イエローサブマリンなのかな。『博士、前進というのは後ろに進むことですか』というのは名台詞だと思います。当時、映画館ですごく笑ったのを憶えています」  UFOの内部の造形、宇宙人の無機的な様子なども、オカルトブームの前後のころか、とても凝っていて飽きない。  傑作『かめくん』の著者であり、亀の飼育者としても名高い北野さんには、亀映画としての評価もうかがった。 「亀映画として、ですか。平成ガメラはかっこいいんですけど造形が整いすぎてて、いまいち亀っぽくないですね。昭和のガメラは不細工なところがかなりリアルに亀っぽいと思います。本物の亀をよくガメラに見立てて砂場とかで遊びましたが、平成ガメラだとあまりそんなことはしそうにないですね。足からだけ火を噴いて飛ぶところなんか、子供が手に持って飛ばしてる感じですね。だから、怪獣映画としてはあんまりだと思うんですが、亀映画としてはけっこういい点をつけられるかな。亀映画の基準がよくわからないけど、亀っぽいということでは、80点くらいで」僕も質問しておいて、基準がまるで分からないのだが、高得点ぽい! 後ろ足から火をふいて飛ぶ=子供が手に持つ亀、という指摘にも納得、さすがである。 「ひさしぶりに観て思いましたが、これは怪獣映画というよりSF映画ですね。怪獣映画っぽさは意外なほど少ない」まったくそう。怪獣に興味のない人ほど、映像として当時の風俗やSFの意匠を楽しめる作品だと思う。 ※次回は19年5月下旬更新予定です。

NANDAKA MITA MOVIE DATA

『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』 製作年:1968年 製作国:日本 監督:湯浅憲明 脚本:高橋二三 音楽:広瀬健次郎 出演:本郷功次郎、高塚徹、カール・クレイク

GUEST PROFILE

北野勇作 小説家、SF作家、落語作家。朗読や役者活動も行う。亀(じゃっぽんさん)の飼育者。会社員を経て1992年、『昔、火星のあった場所』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞しデビュー。2001年『かめくん』で日本SF大賞受賞。Twitterで連載している【ほぼ百字小説】は1500作を超え、『その先には何が!?じわじわ気になるほぼ百字の小説』として書籍化され、現在第3弾まで刊行されている。俳句同人「傍点」主催の「タイマン句会ワールドカップ2018」では、北野さんちのじゃっぽんさんが全試合の勝敗を亀予想し、見事亀として初のMVPを獲得。

MEMO備忘録

この連載の前身と言っていい僕の映画評『観なかった映画』の、巻末に掲載された膨大な「備忘録」。あれが好評だったので、単行本の刊行後に観た(2017年からの)映画の備忘録をここでも少しずつお届けします。順不同、ネタバレあり注意!

『パタリロ! スターダスト計画』 1983年[日]西沢信孝 人気漫画のアニメ映画版。妻に指摘されて初めて思ったが、なんと大胆に省略された背景! そしてきれいな絵。少ない人数で大事件を回している原作の見事さにも感嘆。映画版は東京が壊滅してて驚いた。 『ドクター・ストレンジ』 2016年[米]スコット・デリクソン 医者で格闘もできるヒーロー。アヴェンジャーズに続くのであろうアメコミ映画。ヒーローになる前の修行に尺を割いている。修行仲間の一人が終盤、悪の道に進んでしまうことに、あまり説得力が感じられず。そういう奴っぽく描かれていなかったと思う。最後の大ボスとの戦いもギャグみたいで白けた。 『キングコング 髑髏島の巨神』 2017年[米]ジョーダン・ボート=ロバーツ リメイクだけど、スマホのある現代に時代設定しなかっただけで面白くなった。ベトナム戦争終結時のムードがいい、のだが、汗臭さがどうしても出せてない感じも。コングが出てきてから、細かいことはどんどんどうでもよくなる。 『ハード・コア』 2018年[日]山下敦弘 狩撫麻礼&いましろたかしの怪作を映画化。原作を知っているとどうしても比較してしまうが、楽しめた。ハロウィンをうまく取り入れて「スマホ時代の今もあり得ないわけではない」景色になんとかできていた。原作を読んでいない人がどう思うか気になる。ていうか、原作をぜひ読んでもらいたい! 観なかった映画 なるべく監督や俳優などの名詞を使わず、映画の中に起こっていることだけを語り尽くした映画評論集。読んだ後、映画がなんだか観たくなる。 新装版 春のお辞儀(書肆侃侃房 刊) 2014年に刊行し、絶版となっていた第一句集『春のお辞儀』。新装版として、14年以降の新作を44句増補収録。 野性俳壇 雑誌「小説 野性時代」で、長嶋有が俳句欄の選者を勤めます。一緒に選をするのはテレビ番組『プレバト!!』でもおなじみの夏井いつきさん。投稿は こちらから。 NHK俳句 Eテレ「NHK俳句」で、長嶋有が第二週の選者を勤めます。NHK俳句は毎週日曜、午前6時35分から。投稿は こちらから。 俳句同人 傍点 2014年結成の俳句同人。主催(主宰にあらず)は長嶋有。 ツイッター上の言葉遊びをきっかけに、作家、漫画家、造園業、心理学者、学生、デザイナー、官僚など幅広い職種のメンバーが集う。句会では誰もが点数に拘泥し、逆選の応酬でギスギスと盛り上がる。 同人名の由来は、主催が傍点好きでやたら文章にふることと、俳句とは、それ自体が世界に傍点をふるような行いだというこじつけから。
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長嶋有

長嶋有

1972年生まれ。2001年『サイドカーに犬』で文學界新人賞受賞。2002年『猛スピードで母は』で芥川賞受賞。2007年『夕子ちゃんの近道』で第1回大江健三郎賞を受賞。2016年『三の隣は五号室』で谷崎潤一郎賞受賞。 俳句同人「傍点」主催。 2014年 第一句集『春のお辞儀』を活版印刷で刊行。Eテレ「NHK俳句」にティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ(以下TMNT)のTシャツを着てゲスト出演。時々句会などにTMNTの甲羅型バックパック(サイ付)を背負って登場。 2017年 『観なかった映画』刊行。名詞をなるべく「言わない」映画評のスタイルを確立。 2018年 夜の広尾でサイを落とし、走って拾いにいく。 2019年 Eテレ「NHK俳句」の2019年度第2週の選者を担当。番組サイトの選者紹介ページで、またもTMNTを披露。 長嶋有公式サイト

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