HAIKU HONYALALA Vol.20 BOURBON KOBAYASHI

September 29,2017 /

ブルボンさんが本名でビックコミックオリジナルの表紙の俳句を担当したとのことで、近くのローソンに10月5日号のビックコミックオリジナルと、傍点の同人であるウラモトユウコさんの読み切り「ラッキーボウル紅葉町店」が載っている10月5日号のモーニングを買いに行った。ローソンにはビックコミックオリジナルがなく、モーニングだけを先に買おうと思ったが、やめる。そして踏切の向こうにあるサンクスを目指した。そこにはちゃんと2冊あった。帰り道、一枚の白いビニール袋にはいって、歩くたびにガサゴソしてる二冊の雑誌を見てたら、なんだか笑みがこぼれた。ブルボンさん、一日早いけど誕生日おめでとうございまーす。(smallest)

ブルボン小林の俳句ホニャララ / vol.10

ギネスブックに認定されている「世界一短い手紙」はヴィクトル・ユーゴーが出版社に書いた「?」と、その返事の「!」である。小説「レ・ミゼラブル」の売れ行きを尋ねた(そしてその返事の)手紙だ。 ネルソン・ピケはF1のあるレースを途中で棄権したが、理由は「あまりにも暑かった」からだという。 リンゴ・スターが一時的にビートルズを脱退した際の話。ジョン・レノンと話し合って「どうせ(僕がいなくても)君たち三人で仲良くやってるようだしね」と嫌味をいったらジョンが即座に言い返した言葉は「そんなことないよ」ではなく、「仲良くしてるのは君たち三人じゃないか!」だった(それで毒気を抜かれたリンゴは復帰することに)。 長嶋茂雄は何度も敬遠されるので、ついにあるときバットを持たずに打席に入った。太宰治は芥川賞を懇願する手紙を選考委員に書いた。ゴッホは耳を切り落としたっていうかブルボン、いきなりなんの話を列挙してるんだ、とお思いでしょうな。 前回の「俳句ホニャララ」は、我ながら快心の出来だった。俳句アンソロジー集『天の川銀河発電所』を応援する文章だ。 書評家の豊崎由美さんや歌人の枡野浩一さんにもツイートで誉めていただいた。普段から交流のある二人だが、だからって毎回毎回は褒めてくれないから、前回のテキストは特にパワーが伝わったのだと思う。 なぜか、俳人にだけ、特に褒められなかった。「面白くなかったから」と言われれば仕方ないが、それでは俳句外の人々の(前回に限っての)絶賛と、なんだか辻褄があわない。 アンソロジーの編者である佐藤文香にさえ感謝の言葉一つもらってない。僕が勝手に応援しただけであり、感謝を期待して書いたわけではないから別にいいのだが、俳人の方からの具体的な反響は「泣かせたエピソードは書かなくてよかった」「私なら書かれたくない」くらいだ。 たしかに。佐藤氏の生硬なまっすぐさを伝えるためとはいえ「飲み屋である夜、人を泣かせた」だなんていう俗なエピソードを、なぜ僕は書いたのだろう。そういう俗な話題を、むしろ普段の僕なら避ける。自慢していいことでもなんでもない。 でも、あの文章に限っては必要だったのだ。 今の俳句の世界に欠けているものは、「優れた俳句」でも「若手の存在」でもない。 「優れた俳句を紹介する存在」や「批評」でもない。 欠けているのは「逸話」だ。 面白い世界、多くの人の心を長く灯し続け、熱く語られる醍醐味のある世界には、必ず多くの「逸話」がまつわる。漏れ出る。 ユーゴーや太宰の小説の面白さ、スポーツ選手の成績、偉大な記録、ビートルズの音楽、ゴッホの美術、それら「作品」(やスポーツの結果)に、逸話はなんの関係もない。評価とも無関係だ。 むしろ、あれだ。ゴッホの作品を、彼が耳を切ったことから推察される気性の激しさと「からめて」みるのは、とてもよくない鑑賞だ。 ずいぶん前に、自由律俳人の住宅顕信を特集した本に寄稿したことがあるが、その際も僕は「彼が年若くして亡くなったこと」を作品とからめて感傷的に鑑賞してはいけない、と強く主張した。 だけれども、彼が夭折したという「逸話」は必ず彼に付随する。 (作品というより、作品の生まれた、その)世界が優れていれば、面白みがあれば、逸話の側が勝手にまつわりつくのだ。 「暑いから」と車を降りてしまったF1レーサーの逸話は、F1というもののみせたい本筋ではない。でも、その逸話は、F1がただの結果の優劣や素晴らしい技量だけみせてくれるのでない、人間がやってる生々しい営みがみられる、ということを示してもいる。 「逸話」には、誰と誰が付き合っていたとか、喧嘩したとかいう「俗」も含まれる。それよりもっとずっとくだらないことでも立派な逸話だ。 「アンドレ・ザ・ジャイアントが大の日本嫌いだった」というたったそれだけの逸話で、僕は「へぇ~」と感心してしまう(なにしろ彼は日本人に愛され、何度も来日していたから)。そして、プロレスという縁遠い世界をちょっと奥深い、豊かなものに感じる。 世界的ベストセラー「ハリー・ポッター」の初版がわずか数千部だったとか、「赤毛のアン」は何社に持ち込んでも出版を断られたという「逸話」は、それらテキスト(の価値)と無関係のことだ。 でも、知られている。なぜか。それらの「逸話」は作品を受け止める人々をほほうと感心させ、立ち止まらせ、親しみやすくさせ、なにより「記憶」させ、そして自分たちの(価値の不確かな)世界と地続きのものに感じさせるから。 もちろん、逸話が「ハリポタ」や「赤毛のアン」をヒットさせたわけがない。ヒットしたから逸話が広まった。 でも、逸話はその世界をさらに豊饒にするし、大事な点は「誰も逸話を漏らさなければ」その豊かさも訪れないということ。 だから、あえて僕は、版元とのやり取りも(前回)書いた。書けば、いつかそれがヒットしたり広まった際に、豊かさの一助になる。書かなければ、ならない。 今、俳句シーンの若者たちからはもっぱら、俳句と、評の言葉「しか」出てこない。 たとえば師弟関係があるだけで「逸話だらけ」だろうに。彼らは皆、あらゆる方向に用心深い。それで、生身の人間じゃなく俳句マシーンたちが俳句作って俳句の会話をしているように感じられる。逸話がないんじゃ(たぶん)なくて、自然に広く外まで漏れ出てこない。 僕が飲みの席であるとき若手俳人を泣かせたなんて、他愛ない、しかもさして面白みの少ない話にすぎない。 それでも、ただ「作品」や「評」だけが潔癖に並ぶのでない、生身の人間同士が悩んだりぶつかったりしている「現場」がそこにあるんだ、と伝わる「逸話」だ。 だから、書いた。世界を肉付けするために(つまり、逸話も評論や作品と等しい「言語」なのである)。 無論、逸話を広めるのは危険なことでもある。作品まで俗に鑑賞されてしまう(かもしれない)から。それは以後も考えて「正解していく」しかない。 一方で楽観もしている。 俗なものだけを俗にだけ理解して、声高に喧伝したがる低俗な者は、あらゆるジャンルのすぐそばに貼りついている。でも、歴史を経ればすべてのゴシップも俗も、ちゃんと作品と無関係な、ただの「逸話」になる。 これは、俳句界の人に「もっとゴシップきかせてよー」とかいう低俗な提案をしているのではない。とにかく、アンソロジーを多くの人に届けたいなら、そもそも届ける、届くってどういうことだ、「必要」な「言葉」は? ということを、僕は考えたのだし、これからもそのように考え続けていこうと思う。 (しかし、俳句ホニャララという連載は、その、逸話「ばかり」を語っている営みだという気もしてきた)。

今日の俳句

『天の川銀河発電所』より気に入った句を。 いっけん、かわいらしい事項だし、この本において作者も「かわいい」のカテゴリにいれられているのだが、とても乾いた視線だ。本物とわざわざいわれて、栗の輝きが作り物めいてみえる。 なぜか日当たりがすごく、ない。うす暗い室内に引き込まれる力がある。

野性俳壇 雑誌「小説 野性時代」で、ブルボン小林が(本業の名前で)俳句欄の選者を勤めます。一緒に選をするのはテレビ番組『プレバト!!』でもおなじみの夏井いつきさん。投稿はこちらから。 天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック 俳句ホニャララの作者、本名による句も掲載されている、若手俳人のアンソロジー。編著者は佐藤文香さん。ガイドブックには珍しくテーマソングがあり、自身の句も掲載されているトオイダイスケさんが作曲、編曲、演奏、歌を担当する。 春のお辞儀(ふらんす堂刊) 俳句ホニャララの作者が本名で刊行した第一句集「春のお辞儀」絶賛発売中。 最初で最後の活版印刷で限定発売。 もう生まれたくない 俳句ホニャララの作者の、本名による新刊。誰もが死とともにある日常を通してかけがえのない生の光を伝える、芥川・大江・谷崎賞作家の新境地傑作小説! 観なかった映画 俳句ホニャララの作者が、本名で刊行した映画評論集。はたして作者は映画を観たのか観なかったのか?ぜひ本を手に取って確かめてください、ポップコーン片手に。 EXISTENCE デーモン閣下5年ぶりのソロアルバム。ブルボン小林がエキレビ上でデーモン閣下にインタビューしたことがきっかけで、作詞で参加している。そのインタビューにおける、約10万年生きた悪魔とボンさんのやりとりは必見。その模様はこちら
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ブルボン小林

ブルボン小林

72年生まれ。「なるべく取材せず、洞察を頼りに」がモットーのコラムニスト。 00年「めるまがWebつくろー」の「ブルボン小林の末端通信」でデビュー。 常にニッチな媒体を渡り歩き、北海道新聞、週刊文春などのメジャー誌から、スウェーデンの雑誌やメルマガなどでも連載。 06年刊行の「ぐっとくる題名」(のちに中公文庫)は、広告業界やテレビ局の人間など、あらゆる「命名する」世界の業界人たちから絶賛され、ひそかな小ヒット。 現在は朝日新聞(関東と九州)、女性自身などで連載。小学館漫画賞選考委員。 その他の著書に「ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ」(ちくま文庫)、「ゲームホニャララ」(エンターブレイン)、「マンガホニャララ」(文藝春秋)など。 ブルボン小林 公式サイト

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