HAIKU HONYALALA Vol.16 BOURBON KOBAYASHI

April 26,2017 /

「俳句ホニャララ」の連載を頼んだのは、2014年にブルボンさんが本名で句集「春のお辞儀」を刊行した時期でした。同じ時期に、本名で主催する俳句同人「傍点」の句会に参加するようになり、ピカピカだった歳時記にもようやく味が出てきました。そして今、初めて手にした当時を思いながら「春のお辞儀」を読み返してみました。ほうほう、当時の自分と比べると“難しい漢字が読めるようになっている”、“あとがきが以前より理解できた”、何よりも“知っている季語が増えている”。傍点の句会が面白いから、楽しみながら成長させてもらってます。そして主催がまた面白いことをするようです、さ、代官山に行かなきゃ。(smallest)

ブルボン小林の俳句ホニャララ / vol.16

 代官山の小さなギャラリー「1/2GALLERY」にて詩と俳句の展示をすることになった(本業の名義で)。代官山駅徒歩15秒(15分でなく!)の好立地。それもう、ほとんど駅だ。逆にギャラリーでうっかり夜布団敷いて寝てたら始発に轢かれかねない。  そして代官山のそんなところだもの、そりゃあもうあなた、たいへんにオシャレなスペースである。  僕の前にはミニチュア風写真で有名な本城直季氏の、その前は安西水丸氏の展示が開催された。わー、オシャレ。 「その次、なんかやりますか」とただいわれたら、僕だったらやらない。まあやらないわ。  だのに、だのに、なぜやったか俺よ。  それは、先方から「ぜひブルボンさん、やってください!」と言われたからだ。いや、本当に、本当に。関係者が僕の詩の朗読を聞いて、熱烈に推薦してくれたのらしい。  それでさえしり込みをした。おしゃれということもだが、詩や俳句というものは空間上の「展示」に向かないと思うからだ。「書」として飾るとか、絵とコラボレーションするのならまだ「眺める」ことができるが、文字はただ展示しても、本を読むのとなにが違うの、ということになる。  タイポグラフィ的に工夫しても、あまり面白いことになりにくいんじゃないか。  1/2GARELLY主催者と何度かミーティングの末、それでも結局、「ただ」詩と俳句だけをシンプルに展示することにした。詩も俳句も、既発表の作品と新作を5:5で出すことになった。  まず余談だが、詩の既発表作は、本連載読者にはおなじみ(?)smallest君とやっているバンドSUPERSTARSの曲の歌詞が「詩」として展示されることになった。  主催者側に「こんな詩を書いてます」とサンプルを送ったとき、そのデータの下の方に間違いでくっついていたのだ。 「これ、いいですね!」向こうでウケているので、アノー、それ詩じゃなくて歌詞なんで……とは引っ込めにくくなってしまっての採用。いきなりマンガみたいな話だ。ナンカコー、詩っぽくないコミカルな文言で、展示は恥ずかしいのだが、仕方ない。  で、俳句の既発表作は主催者側に選句してもらうことにした。  詩は、腹を括れる。というか腹を括るしかない。  詩にはそれぞれきっと巧拙があり、評者はいくらでも個々の詩を否定していいが、ただ一つ「こんなの詩じゃない」という言葉だけは嘘だと思っている。  巧拙を問われることはあっても、詩はその人が「詩だ」とみなしたものはすべて詩だ、というのが僕の考えだ。分かりにくかろうと分かりやすすぎようと自分が「詩だ」と感じる今の時点での最善の言葉の並びを出すしかないのだ。  俳句は腹を括れないのかというとそんなことはない。始めたばかりの詩作と比べても、二十年以上やってる自分なりの俳句観もあるっちゃある。  でも(さっき「なにが違うの」と書いた癖にいうが)、句集で俳句を発表するのと、ギャラリーの壁にそうすることの間には差がある。  句集は、少なくともそれをめくる人には「今から自分の目に飛び込んでくるのは俳句だ」ということだけは伝わっている。  ギャラリーは、もっとぼんやりした、あるいは意外な心持で表現(この場合テキスト)を目にするだろう。  写真や絵だったら、そうはならない。「句集に載っている俳句」と同様、ギャラリーに入る前の時点で「今から自分の目に飛び込んでくるのは絵や写真だ」ということだけは了解して入室するのだ。  だから前衛的だったり難解なものがあっても、取り乱さない。へえ、とか、ふうん、とかいう「顔」が出来る。  俳句は言語だから、抽象画や前衛アートのように分からないということはない。「識別」は容易だ。だけど理解や感じ方はそのようにはいかないだろう。  絵や写真が「分かる表現」だけが良い表現ではないことと同様に、俳句もそうだ。だけども、前例のあまりない俳句の展示で、「分からない」表現ばかり並ぶのはいささか不親切にすぎやしないか。  それで、俳句をしないギャラリーの皆さんに拙句集を渡し、選句してもらったのである。彼らが分かる句なら、ふらりと入ってきたいちげんさん(俳句の)も分かるということだ。それで選ばれたのが、たとえば下記の句である。   くすぐるのなしね寝るから春の花   右頬に飴寄せたまま夏に入る   ため息を覚え少年夏の空   夏服で楽譜めくってあげる役   催しの収支とんとん秋日和   橋で逢う力士と力士秋うらら   美人だが面食いでしたちゃんこ鍋  この一連をみて僕は「あっ、そうなるのか。しまった!」と思ったのだが、なにが「しまった」のか、分かっただろうか(散文的な句が選ばれるだろうことは予期できていたが)。  答え。先方の選んだ、ほとんどの句の季語が「春夏秋冬」という語の入った季語だったのだ!  春の花、夏に入る、秋日和。上記で「春夏秋冬」という文字の入らない季語は「ちゃんこ鍋」だけだ。 「無季」の句が選ばれていないことも面白い(散文的には面白おかしい句が多いのに)。「俳句って季語がいるんでしょう?」という知識で、選べなかったんだと思う。 「切れ字」の入った句も一つも選ばれなかった。  俳句は作るのも難しい。でも俳句をいきなり「いい」と「思う」のは、これもまた難しいことであるらしい。  かといって、まったくなんにも選べないわけでもない。「言語」として分かることの範疇で、実に誠実に選ばれたのだ。  先方が選んでくれた句が「ダメ」だったわけでは、もちろんない(自分でダメと思う句を句集に収録するわけがない)。  それでも、せっかく選んでもらって申し訳ないがと謝って、展示作は入れ替えさせてもらった。前衛アートや抽象画がそうであるように、醍醐味を知ってから分かる表現だってあるし、展示をみる人も、分からなくても即拒絶したりしない。  ……いや、俳句って即「下手くそ」みたいに言われうる(誰でも自分は「言語」は分かっているつもりだから、絵と違っていきなり「読み解きに自信がもてちゃう」のだ)。だからやはり不安なのだが、どうなることやら、のこの展示は5月29日まで開催。ぜひ皆さんみに来て、記帳していってほしい(「長嶋有 詩と俳句展」は代官山1/2GALLERYにて開催中)。 (作者在廊のスケジュールは公式ツイッターにて) IMG_0038

今日の俳句

 今月、ブーメラン句会につづいて凧揚げ句会をした中の秀句。 「シャーロック・ホームズ」を読み続けていて驚くポイントの一つにホームズの兄、マイクロフトの出現がある。え、より上がいたの? という面白さだ。 凧揚げにも似たことがあると知って、そのことにまず感心する。 あらゆる世界に師弟関係はあろうが、凧の場合「師匠の前を」通っても「不敬」にならない。そのことが(普通の師弟というもの一般的な礼儀に照らして)不思議に思える。俳句の短さで凧の本質もとらまえた。凧あげ句会の醍醐味については次回!

長嶋有 詩と俳句展 @ 1/2GALLERY 俳句ホニャララの作者が、本名で展示会を行います。2017年4月26日~5月29日(火曜定休日)11時~20時、場所は代官山駅15秒!1/2GALLERYです。運がよければ作者が“在&廊”しています。飾りたくなる言葉、あります。

観なかった映画 俳句ホニャララの作者が、本名で刊行した映画評論集。はたして作者は映画を観たのか観なかったのか?ぜひ本を手に取って確かめてください、ポップコーン片手で。 春のお辞儀(ふらんす堂刊) 俳句ホニャララの作者が本名で刊行した第一句集「春のお辞儀」絶賛発売中。 最初で最後の活版印刷で限定発売。 野性俳壇 雑誌「小説 野性時代」で、ブルボン小林が(本業の名前で)俳句欄の選者を勤めます。一緒に選をするのはテレビ番組『プレバト!!』でもおなじみの夏井いつきさん。投稿はこちらから。 俳句同人 傍点 2014年結成の俳句同人。主催(主宰にあらず)は長嶋有。 ツイッター上の言葉遊びをきっかけに、作家、漫画家、造園業、主婦、心理学者、学生、デザイナー、官僚など幅広い職種のメンバーが集う。句会では誰もが点数に拘泥し、逆選の応酬でギスギスと盛り上がる。 同人名の由来は、主催が傍点好きでやたら文章にふることと、俳句とは、それ自体が世界に傍点をふるような行いだというこじつけから。

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ブルボン小林

ブルボン小林

72年生まれ。「なるべく取材せず、洞察を頼りに」がモットーのコラムニスト。 00年「めるまがWebつくろー」の「ブルボン小林の末端通信」でデビュー。 常にニッチな媒体を渡り歩き、北海道新聞、週刊文春などのメジャー誌から、スウェーデンの雑誌やメルマガなどでも連載。 06年刊行の「ぐっとくる題名」(のちに中公文庫)は、広告業界やテレビ局の人間など、あらゆる「命名する」世界の業界人たちから絶賛され、ひそかな小ヒット。 現在は朝日新聞(関東と九州)、女性自身などで連載。小学館漫画賞選考委員。 その他の著書に「ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ」(ちくま文庫)、「ゲームホニャララ」(エンターブレイン)、「マンガホニャララ」(文藝春秋)など。 ブルボン小林 公式サイト

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